法人を設立した後、最初に必要となるのが「法人口座の開設」です。取引先からの入金や経費の支払い、税金や社会保険料の納付など、事業活動の中心には銀行口座があります。
しかし、銀行にはメガバンクや地方銀行、信用金庫、ネット銀行など、さまざまな種類があります。そのため、法人口座を開設しようとしても「どの銀行を選ぶべきか判断できない」と迷う方もいるでしょう。
銀行の種類によってサービスの特徴や審査基準、手数料の水準、融資の受けやすさなどが大きく異なるため、目的に応じた選択が重要です。この記事では、起業直後の方が最適な法人口座の開設先をスムーズに選択できるよう、各銀行のメリット・デメリットを税理士の視点から解説します。
(1)そもそも法人口座とは
そもそも「法人口座」とは、株式会社や合同会社、一般社団法人など、法人名義で開設する銀行口座を指します。個人事業主が自身の名義で使用する口座とは異なり、法人の資金を管理するための専用口座です。
売上金の入金、経費の支払い、税金や社会保険料の納付など、さまざまな取り引きの基盤となるため、開業時に必ず準備しておくべき手続きといえます。
法人と代表者個人の資金を分けて管理することは、経費と私的な支出の混同を防ぎ、会計や税務処理の正確性を保つうえで重要です。特に、法人税の申告や会計処理を行う際、個人口座と混在していると経費計上や貸付金・仮払金の処理が複雑化し、税務リスクを高めるおそれがあります。
また、取引先によっては「法人名義での振込指定」が求められる場合もあるため、信用確保の観点からも法人口座の開設は必須といえるでしょう。
(2)メガバンクのメリット・デメリット
「メガバンク」は、全国的な店舗網と高い知名度を有する大手銀行です。
最大の特徴は、法人としての信用力向上に寄与する点です。メガバンクの口座を保有していることで、取引先や金融機関からの信頼を得やすくなります。
全国でATMや店舗を利用でき、海外送金や外貨取引などの国際サービスも充実しているため、将来的な事業拡大や海外展開を見据える法人に適しています。
一方で、法人口座の開設は、どの銀行でも「反社会的勢力との取引排除」や「マネー・ロンダリング対策」の観点から審査が厳格化されており、特にメガバンクは審査が厳しい傾向にあります。
開設までに時間がかかる場合があるだけでなく、起業直後の法人は、事業実績がないことを理由に口座開設が認められないケースもあるでしょう。
審査では、事業内容や所在地、代表者の身元、法人のWebサイトやオフィスの有無といった事業の実態などが確認されます。オンライン事業などで自宅を登記先にしている場合でも、事業内容や取引実態を明確に説明できれば開設できる可能性があります。
事業の実態を示す資料として、定款や登記事項証明書、請求書、契約書、事業計画書などを準備しておくと手続きがスムーズです。
また、他行宛ての振り込みや口座維持、オンライン取引にかかる手数料などが、割高な傾向にあります。さらに、ネット銀行に比べてオンライン取引の利便性が劣る場合もあるため、信用力を重視する法人に適した銀行といえます。
(3)地方銀行のメリット・デメリット
「地方銀行」は、特定の地域に密着した金融機関であり、地域経済との結びつきが強い点が特徴です。
口座を開設する最大のメリットは、起業直後の法人に対する柔軟な対応です。経営者の人柄や事業内容などが総合的に判断され、比較的スムーズに口座を開設できる傾向にあります。
融資相談もしやすく、地域での実績や信頼関係が重視されるため、将来的な長期取引に発展する可能性がある点も魅力です。特定のエリアに限定した融資制度や、地元企業とのビジネスマッチング、自治体による補助金の紹介、商工会議所との連携など、地域に根付いた支援を受けられる場合もあります。
デメリットとしては、全国的な利便性が限定的な点です。ATMネットワークやオンラインサービスの範囲は、メガバンクやネット銀行より狭く、全国展開を視野に入れる法人には不便な場合もあります。
手数料水準としてはメガバンク並みのケースもありますが、振込手数料やATM手数料を優遇する「法人向けプラン」を設けている銀行も少なくありません。
地方での信用構築や融資支援を重視する場合に、地方銀行は有力な選択肢といえるでしょう。
(4)信用金庫のメリット・デメリット
「信用金庫」(信金)は、中小企業や個人事業主を主な対象とする協同組織型の非営利金融機関です。地域経済の発展に資することを目的としており、営利を優先しない柔軟な対応が特徴です。
信用金庫の利点は地方銀行と同様、起業直後の法人でも口座を開設しやすく、経営者との信頼関係を重視した親身な対応が挙げられます。担当者が経営方針や人となりを見極めたうえで支援してくれるため、小口融資も比較的相談しやすいでしょう。
また、地域ネットワークを通じたビジネスマッチングや、自治体・商工会議所との連携など、金融面以外の支援が得られることも多くあります。
ただし、信用金庫は法律上、営業区域が定められており、原則として営業区域内に本店または事業所がある法人のみが口座を開設できます。そのため、地域外での取り引きや拠点展開を重視する法人には不向きです。また、オンラインサービスや海外取引機能も限定的です。
地域密着型の経営を志向する法人にとって、信用金庫は非常に良いパートナーとなるでしょう。
(5)ネット銀行のメリット・デメリット
「ネット銀行」は、実店舗を持たず、すべての手続きをオンラインで完結できる銀行です。最大のメリットは、低コストと高い利便性です。
振込手数料や口座維持費が安く、入出金や送金が24時間可能なため、時間と場所を問わず資金管理ができます。
ほかにも、設立直後の法人でも比較的スムーズに開設しやすく、審査から利用開始までの期間が短い傾向にあります。クラウド会計ソフトとの自動連携機能が充実している銀行もあり、経理業務の効率化にも有用です。
一方で、現金取引に制約がある点に注意が必要です。入出金は提携ATM経由となり、入金上限が設定されている場合もあります。そのため、現金を多く扱う業種には不向きといえます。
また、ネット銀行は対面サポートがないため、事業相談や融資相談を直接行いたい場合には不便でしょう。
なお、ネット銀行によっては設立間もない法人に開設制限を設けていたり、登記簿謄本・印鑑証明書の郵送を求められたりするケースもあるため、事前に条件を確認することが大切です。
融資対応については、設立間もない法人には非常に限定的な銀行が多いです。地方銀行や信用金庫、日本政策金融公庫など、他の金融機関の活用も併せて検討するとよいでしょう。
総じて、コストを抑えながらスピーディーな経営を志向するスタートアップやIT関連企業に適した選択肢といえます。
(6)銀行を選択する際のポイント
法人口座を開設する際は、「どの銀行が最も信頼できるか」だけでなく、事業規模や取引形態、今後の展開などを踏まえて判断することが重要です。
たとえば、信用力を重視する場合はメガバンク、地域との関係構築を重視する場合は地方銀行や信用金庫が適しています。特に信用金庫は起業直後の小規模事業者に対して融資や支援が手厚い傾向があります。
自治体による制度融資の利用や日本政策金融公庫からの借り入れを検討する際も、地域に密着した金融機関との連携が有効です。
一方、コスト効率やスピードを重視するのであれば、ネット銀行が適しています。ただし、地方銀行や信用金庫に比べて融資や対面支援の体制が限定的なので、補完的に利用してもよいかもしれません。
このように、銀行の種類によってメリット・デメリットが大きく異なるため、用途に応じて使い分けることもおすすめです。
たとえば、融資面を重視して地方銀行や信用金庫をメイン口座に位置付け、利便性と低コストが強みのネット銀行は、サブ口座としてオンライン決済などに利用するといった方法が考えられます。
そして、法人の成長に応じてメガバンクでも口座を開設するなど、用途に応じて銀行を選択することで、資金管理の効率化と信用力の両立が図れます。なお、業種や取引形態によって最適な組み合わせは異なるため、税理士などの専門家に相談しながら検討したほうがよいでしょう。
また、いずれの銀行でも、事業の実態や継続性が確認できる資料をあらかじめ整えておくことが、審査をスムーズに進めるポイントです。資料の収集や作成についても、税理士へ相談することをおすすめします。
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